【論文紹介】 ザクロにおける血糖値とインスリン濃度への効果

血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高い値を持続してしまう疾患「糖尿病」は、日本人の成人およそ5人に1人が罹患している生活習慣病です。

インスリンというホルモンが正常に働くことで血糖値は一定の範囲内におさまっていますが、高血糖状態が続くことでインスリンの感受性が悪くなってしまいます。すると、インスリン濃度が高まり(高インスリン血症)、インスリンを分泌する膵臓の疲弊や交感神経の緊張、腎臓でナトリウム(塩分)が排泄されにくくなり、高血圧の引き金となることや、脂肪をため込み肥満を招くなどの悪循環が起きてしまいます。

今回は、ザクロの空腹時血糖値および血中インスリン濃度や血糖正常化能力について調査した論文がありますのでご紹介します。

【目次】

1.  ザクロの血糖値とインスリン濃度への効果

(1)目的

(2)方法と結果

(3)結論

2.   まとめ

1.  ザクロの血糖値とインスリン濃度への効果

(1)目的

ザクロ種子油に豊富に含まれる「プニカ酸(PUA)」は、非常に健康効果が高いと知られている共役リノール酸の一種であり、脂質代謝の改善に効果があるといわれている。脂質代謝は血糖値やインスリンの働きにも関わるため、PUAは「血中のグルコースやインスリン濃度の改善を期待できるのではないか」と仮説を立て、検証した。

(2)方法と結果

【対象】

4週齢、雄マウス

やせ型マウス(n=24、糖尿病陰性、体重19.54g)と肥満型マウス(n=60、前糖尿病、体重21.42g)

【方法】

やせ型マウスと肥満型マウスを半数ずつに分け、同カロリーの異なる2種の高脂肪食を30日間与えた。

2種の高脂肪食は①大豆油が主②ザクロ種子油(PUA):大豆油≒1:3

1群:やせ型マウス・PUAを含む高脂肪食

2群:やせ型マウス・PUAを含まない高脂肪食

3群:肥満型マウス・PUAを含む高脂肪食

4群:肥満型マウス・PUAを含まない高脂肪食

以上、4群について。

血漿グルコース、インスリン濃度について30日間(0,7,14,21,30日目)調査した。

また、PUAがグルコース正常化能力を高めるか判断するため、

12時間絶食後(空腹時)、血液サンプルを尾静脈を介して採取した。

その後、腹腔内にDグルコース(2g/kg体重)を注射し15,30,60,90,120,180分の血漿グルコースの動態を調べた。

【結果】

<空腹時血漿グルコース濃度>

やせ型・肥満型マウス共に、各々の遺伝子型の比較において、1群・3群(PUAを含む高脂肪食を与えたマウス)のほうが、14,21,30日目の空腹時血漿グルコース濃度が低かった。

尚、血漿グルコース濃度はやせ型マウスよりも肥満型マウスで高い割合で上昇した。

実験30日目、4群(肥満型・PUAを含まない高脂肪食群)のグルコース濃度は糖尿病型(358mg/dl)に相当したが、3群(肥満型・PUAを含む高脂肪食群)は、4群よりも低いグルコースレベルを維持した(278mg/dl)。

<血漿インスリン濃度>

肥満型マウス(3群、4群)の30日目のインスリン濃度について、3群(PUAを含む高脂肪食を与えた群)の血漿インスリン濃度は基礎レベルにとどまったが、4群(PUAを含まない高脂肪食を与えた群)は高インスリン血症だった(10.58ng/ml)。

<血糖降下能>

両遺伝子型共に、1群・3群(PUAを含む高脂肪食を与えたマウス)は、0~180分の血漿グルコース濃度が、2群・4群(PUAを含まない高脂肪食を与えたマウス)よりも低かった。

その差は、特に15,30,60分後に大きく、やせ型マウスでは、15,30,60分後に有意差が認められ、肥満型マウスでは180分後まで有意差が認められた。

(3)結論

ザクロ種子油を継続して摂取することで、空腹時血糖値の改善が期待できる。特に、肥満遺伝子型でその効果が高いことが示唆された。

血漿グルコースとインスリン濃度の変化から、ザクロ種子油の摂取により、インスリン抵抗性および高インスリン血症の改善が期待できる。特に、肥満遺伝子型が継続摂取することによって、インスリン濃度が改善されることが示唆された。

2. まとめ

「プニカ酸(PUA)」は、ザクロの種子中には64~83%と豊富に含まれる多価不飽和脂肪酸で、他の植物にはあまり見られないザクロの特徴的な脂肪酸で、非常に健康効果が高いといわれています。

今回は糖尿病に重要な「血糖値やインスリンに関する効果」をご紹介しました。

「糖尿病」は悪化するまで自覚症状に気づきにくいため、治療せずに高い血糖値を放置したままになりやすく、合併症が懸念される病気です。

高血糖が続くことで三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)や血管の動脈硬化が進みやすく、心臓病や脳卒中などのリスクも高まります。

糖質の摂り過ぎ、特にジュースや菓子類の糖分には気を付け、野菜類やたんぱく質をバランスよく摂ることや運動など生活習慣に気を付けると共に、ザクロの継続摂取をプラスして健康的に楽しい人生を送りましょう!

皆さまの健康と笑顔を願っています。

<参考文献>

アメリカ栄養学会ジャーナル Vol.28,No2,184―195(2009)

PPARの活性化とプニカ酸による改善~耐糖能と肥満関連の抑制~

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★記事制作:管理栄養士 松下眞子(まつしたまさこ)

2001年 東京家政大学家政学部栄養学科を卒業。 同年に、管理栄養士国家資格を取得し、管理栄養士としての活動をスタート。 大手自動車メーカーの集団給食業務を経て、糖尿病専門クリニック、内科、健診センターで栄養と生活指導や特定保健指導を行う。

指導件数は延べ2500件以上になり、食と生活習慣・心理状況の関係性が深いことを痛感し、心理学を活かした食事・生活指導を企業や個人向けに行う。

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